RESEARCH

CONCEPT

鈴木研究室では、「生命現象の理解を通して医学へ」を念頭に徹底した基礎研究を行っています。
私達の研究には主に3つのステージがあると捉えています。

1つ目のステージは新しい現象に着目して開拓する時期。この時期は最も労力を要し、挑戦、勇気、忍耐、創造が強く求められます。数ある研究テーマの中でどのような問題に取り組むのか考え、それにどのようにアプローチするのかというところに研究者それぞれの個性が反映されます。私達はこの段階においては、自分たちで新しい実験系を樹立しスクリーニングをベースとして答えを見つけることを好んでいます。それによって設定した問題そのものの答えを出すことは何より重要ですが、その中で思いがけない発見をすることもあるでしょう。幸運にも真の答えに辿り着いた時、目の前には今まで思いもしなかった景色が広がっています。

2つ目のステージは最初の発見の芽を発展させる時期です。そこでは、自分たちの発見を通して今まで未解明の現象をとらえなおすことができます。それによって新しいアイデアで研究に取り組むことができ研究の幅を広げることができる時期です。また、一つの問題を解くことで次の疑問もでてきます。その新しい問題に取り組むことによって着目している現象への理解が更に増し研究の深みがでることでしょう。

3つ目のステージは自分の発見がどのように役立つかを考える時期です。私達は、「生命現象の本質的な理解こそが生物学の面白さである」と認識しており、それをモチベーションに研究を続けていますが、同時に取り組んでいる研究の「役立つ可能性」を常に意識しています。特に医学に対しては病気の理解、病気の診断、病気の治療、健康の維持のどの段階に寄与できるのか、またより広くは生物学全般の理解を進めるための新しい技術、方法論を作り出せるのかを考えています。
このステージでは自分たちで全てを行うのではなく、製薬会社や企業、共同研究者などそれぞれの分野の専門家と協力することも必要でしょう。このような目的を達成するために鈴木研究室ではバックグラウンドや経験を問わず熱意のある人達と一緒に研究に取り組みたいと考えています。研究とは人の営みであり人の熱意こそが研究を進め新しい考え方を生み出すと思っています。やる気のある皆さん、興味を持たれたら是非、鈴木研究室に来て下さい。

MOTTO

独自性を大事にして面白いと思えるサイエンスを発信する

私が研究において最も大事にしているのは「独自性」です。ここでは独自性のある研究を個性のある研究と定義します。そこに創造性が加わった研究を独創性のある研究と定義すると独自性のある研究というのはもう少し身近なものだと感じられると思います。独自性のある研究は言い換えれば自分たちの色がある研究です。世界中に数多くの研究室があり多くの人が研究をしている中で、「この研究室はこんな研究をしている」と誰もが頭に浮かぶような研究室を築いていきたいと思っています。
では独自性のある研究というのはどのようにすればできるのでしょうか?これは私自身の中でも常に意識している問題ではありますが、誰も取り組んでいない問題に取り組むことはその一つだと思います。例えば、私達が研究を行ってきたリン脂質スクランブルは、現象としては約30年前から知られており重要であることは多くの人が認識していたもののほとんど解析が行われていませんでした。私達はそれに関わる遺伝子を世界で初めて同定したのですが、その研究を発端として世界で様々な角度からリン脂質スクランブル研究への取り組みが始まっているのを感じています。すなわち、独自性のある研究というのは分野に対して波及効果も持ち合わせている研究とも言えるでしょう。

そしてそれは、国から交付を受けた研究費でなぜ自分達が基礎研究をしているのか、社会に対して説明できる「直接的に役に立つもの」以外の真の価値だと思っています。付け加えるべき点として、私達が行った研究において同定した遺伝子、並びにその遺伝子に注目した研究は創薬に繋がると判断されたため特許出願も行いました。
そういう意味では独自性のある基礎研究というのは応用研究にも繋がる可能性があると思っています。
その他に、既に多くの人が取り組んでいる研究分野でも全く新しいアプローチで問題に取り組むことで独自性を出すことは可能だと思います。また、既に成熟している研究分野に新しい要素(技術、考え方)を取り入れることで独自性を出すこともできるでしょう。
私達は独自性を大事にして研究に取り組み、予想外の結果も楽しむことができる余裕を持ちながら私達が考える真に重要なサイエンスを発信していきたいと思っています。

PROJECT

未解明のことが多い分野で独自性を意識して研究する

研究室代表の鈴木は大学院時代「細胞のがん化機構」を研究していました。その中で多くの人が既に参画している競争の激しい研究分野ではなく、まだ未解明のことが多い研究分野で独自性のある研究をしたいと考え「細胞死」の研究を通して「細胞膜脂質ダイナミクス」の研究に辿り着きました。生物学的に、そして医学的にも重要であるにも関わらず分かっていないことが多い研究分野です。 また、脳、骨、筋肉、胃腸、生殖器、血液など様々な組織において機能することから発展性と拡張性が期待でき、その異常はヒトの遺伝病の原因遺伝子となっていることから研究を通して医学にも寄与できる分野です。現在は特に以下の点に注目して研究を進めています。

1.Phospholipid Scrambling

細胞膜を構成するリン脂質は非対称性を有しており、ホスファチジルセリン(PS)は細胞膜の内側に存在しています。しかしながらこの非対称性は生体内において様々な状況下で公開し、PSは細胞表面に露出しシグナル分子として機能します。出血時に血小板において露出したPSは血液凝固因子が活性化するための足場として機能し、細胞が死んだときに細胞表面に露出するPSは貪食細胞に食べられるための”Eat-me”signalとして機能します。このPSを細胞表面に露出するタンパク質はスクランブラーゼと呼ばれていましたが、その実体は長らく不明でした。
私はスクランブラーゼを同定することを目的として研究を進め、血液が凝固するときにPSを露出するTMEM16F (Suzuki et al., 2010 Nature)、細胞が死んだときにPSを露出するXkr8 (Suzuki et al., 2013 Science)を同定しました。TMEM16Fは10個、Xkrは9個より成るファミリーに属しており、そのファミリー分子もスクランブラーゼとして機能することを明らかにしました。(Suzuki et al., 2013 J Biol Chem; Suzuki et al., 2014 J Biol Chem)。(詳細は生化学の総説を参照)それらの幾つかはヒトの遺伝病の原因遺伝子です。
また、私達はXkr8のサブユニットとしてI型膜タンパク質のBasiginやNeuroplastinを同定しました。(Suzuki et al., 2016 PNAS)。しかしながらXkrファミリーの他のメンバーのXkr1はII型膜タンパク質のKellをサブユニットとして用いておりそれぞれのメンバーが用いているサブユニットに関しては未だ不明です。私たちはこれら同定したスクランブラーゼの機能解析を様々な角度から行います。

2.”Eat-me” signal in Neuroscience

発生期の脳においては多数の神経細胞が生まれ、その後、約半分の細胞がアポトーシスにより死滅します。一方で成人の脳では神経細胞が新しくネットワークを形成する時に、シナプス、樹状突起、軸索など生きた細胞の一部を除去し、新しい構造を創造することで機能再編を実現します。また、網膜においては視細胞外節の一部が常に網膜上皮細胞に貪食され、同時に新生されることでることで恒常性を保っています。この創造的破壊現象(スクラップ&ビルド)には”Eat-me”signalを介したグリア細胞による貪食が関わると考えられていますが、その詳細なメカニズムについてはほとんど分かっていません、この過程を遺伝子レベルで明らかにするために現在機能解析を行っています。
神経疾患に目を向けると、アルツハイマーにおいては神経細胞死が誘導される前にグリアによるシナプス除去が起こると報告されています。これら臨床的な意義も頭に入れながら神経系における”Eat-me” signalを介した貪食の解析を行います。

3.Screening

重要な遺伝子はほぼ見つかったという人もいますが果たしてそうでしょうか?例えば、スクランブラーゼ一つをとってみても、小胞体やゴルジ体などで機能する細胞内スクランブラーゼの分子的実体は未だ分かっていません。血小板の活性化時やアポトーシス時以外に細胞表面でPSを露出するスクランブラーゼの実体も不明です。
未解明の現象に関わる遺伝子を同定する時には、新しい実験系を樹立してスクリーニングすることが一番の近道であると私達は考えており、以下の4つのアプローチを用いることで新しい現象に注目した機能的遺伝子の同定を進めています。

  • A.発現クローニング:自分たちで作製したcDNA libraryをレトロウイルスベクターに組み込み細胞に発現させ、興味のある形質を獲得させる遺伝子を同定する機能的スクリーニングを行っています。
  • B.遺伝学的スクリーニング:CRISPR/Cas9とsgRNA libraryを用いて網羅的に遺伝子を破壊することで、興味のある形質に関与する遺伝子を同定する機能的スクリーニングを行っています。
  • C.生化学的スクリーニング:目的タンパク質に対する結合タンパク質の同定においてこれまで指摘されていた複数の問題点を自分たちで克服した実験系を用いて、目的タンパク質の真の結合タンパク質の同定を行っています。
  • D.薬剤スクリーニング:これまで私達が培ってきた遺伝子、タンパク質同定のためのスクリーニングのノウハウを薬剤スクリーニングに適用したいと考えています。

4.Interdisciplinary Approach

私達が所属するiCeMSにおいては、化学、材料工学、物理、数学など異なる領域を専門とする研究者が同じスペースで研究をしています。私達はこれまで、主に生物学や医学を専門とする研究者が集まる組織の中で研究を進めてきましたが、異なるバックグランドを持つ研究者との対話の中で、研究をどのように捉えのるか今までとは異なる刺激をもらっています。
特に、これまでは既にある化合物や材料を用いて実験を組み立てていましたが、必要な化合物や材料に関しては新しく合成、もしくは作製しそれらを用いて実験を組み立てることができるという発想に至りました。また自分達が研究している現象を更に詳細に記述するために数理解析、1分子解析を行うなど異なるバックグラウンドをもつ研究者との共同研究に取り組み始めています。

PUBLICATION

私たちの研究成果とその解説です

MESSAGE

1つ1つ実験を積み重ね、結果を自分の頭で考える

研究を学ぶ時、何を対象に研究をするのかと同時に、誰とどのように行うのかということが大事だと考えています。特に独立するまでは(大学院生時代、研究員時代)、研究の対象よりも誰から何を学ぶのかが大事だと思っています。
私が大学院時代に所属していた花房秀三郎研究室では「自分の頭で考える」ということを鍛えてもらいました。これは、実験で自分が得た結果を既存の概念だけで捉えるのではなく、どのような意味を持つのか自分自身の頭で考え抜くということです。
また大学院卒業後、准教授になるまで所属していた長田重一研究室では、「1つ1つの実験を丁寧に進める」ことの重要性を教えてもらいました。これは、大きな発見も1つ1つの実験の積み重ねの上に成り立っているということであり、地盤がしっかりしている研究は決して揺るがないということです。

私は尊敬すべき先人の研究哲学を受け継ぎ、更に私自身の経験を通して発展させた研究に対する考え方を学生や研究員に伝えていきたいと思っています。そして一人前の研究者として成長してもらうために、実際の実験データをどのように捉えるのかディスカッションを行いながら一緒に研究に取り組みたいと思っています。
また、実験だけではなく研究を進めていくために必要な申請書の作成、学会でのプレゼンテーション、論文の執筆など研究者として必要なスキルを身につけてもらうため丁寧に指導する予定です。研究は基本的に個人で行うものではありますが、ラボの一員として人との関わりの中で研究を進めているということを意識する中で協調性も身につけてほしいと思います。

研究とはいつもうまくいくものではありません。実際にはうまくいかないことから学び、うまくいく条件を見つけたり、新しいアイデアを出したりしながら進めていくものです。そこには粘り強く取り組む姿勢が大事なのは必然として、答えを見つけるためのプロセスを楽しむ気持ち、そして「なんとかなるだろう」と大きく構える気持ちも重要です。うまくいかないことから学ぶことで前に進んでいることを実感しながら研究を進めていくことができれば、きっと研究を楽しむことができるでしょう。
若い時には将来に関して色々と悩みがあり不安もあるかと思います。しかし「研究をやりたい」と思ったなら是非鈴木研究室を訪ねて下さい。一緒に研究をしましょう。

京都大学高等研究院iCeMS